
「超魔術」で知られるMr.マリック(76)が、35年にわたる活動の中で最もピンチに陥ったのが1991年、人気が急上昇している時だった。
ある日突然、顔面神経麻痺(まひ)を発症。テレビ番組に出ながらも2年にわたって闘病した。苦しい経験は
「先の目標を立てるよりも、目の前のことを一つ一つ、丁寧にしていく」という心境の変化につながったという。(高柳 哲人)
次々と不思議な現象を巻き起こす「ハンドパワー」も、自らの病を防ぎ、治すことはできなかった。「子供の頃から入院なんて一度もしたことがなかった」
というマリックが突然、顔面麻痺に襲われたのは1991年のある日、友人と都内でもつ鍋をつついていた時のことだった。
「口に入れたつもりのモツが、ポロッと器に落ちたんです。それを拾って食べようとしたら、またポロッと。
そうしたら、向かいに座っていた友人が『ちょっとトイレに行って、鏡を見てきてほしい』と言いました。きっと、(表情がおかしいと)言いづらかったんでしょうね」
その時は、自らの異変に気づいていなかった。だが、鏡を見て驚いた。
「顔の半分がズレているんですよ。眉毛の高さが左右で違っていた。そのうち、目がチカチカしてきて、右目を動かせない。『何だこりゃ』と思いながら席に戻り、家に帰りました」
医師の診断は顔面神経麻痺。「耳の奥あたりにある神経が萎縮(いしゅく)していて、麻痺の症状が出た」ことで、顔の右側が動かなくなっていると言われたという。
即日入院したが、治療は首の後ろにある「星状神経節」に午前と午後の2回、ブロック注射するだけ。「それなら自宅から通院します」と申し出たが、医師からは「絶対に病院に来なくなるから、入院してください」と言われた。不思議に思ったものの、すぐにその理由が分かった。
「とにかく、注射がメチャメチャ痛いんです。針を刺されると、何か体の中にブワーッと入ってくるのが分かった後、暴れたいくらい痛くなる。動くと危ないので、4人の看護師さんに体を押さえられて注射されていました」
病院には同じ治療を受けている患者がいて、注射の際にはズラリと並べられたベッドに寝て順番を待った。当時、すでに有名人だったマリックは、カーテンを引かれた一番端のベッドをあてがわれていた。
「治療が始まると、注射を打たれた人の『ギャー』という悲鳴が聞こえる。それがだんだん近づいてくるんですよ。
『あと2人、あと1人』となって『キターッ!』と(笑)。もう拷問でした」
https://news.yahoo.co.jp/articles/c660ecdd3a787ae14a85065af49e16f72b14fba0