村上春樹への関心
− 小説家の話になりますが、好きな作家は誰ですか。
イシグロ 伝統的な作家、つまり偉大な作家では、今でもロシアの作家が好きです。チェーホフ、トルストイやドストエフスキーです。
ある意味では私が20代の頃に気に入っていた作家と同じです。年を取るにつれて、ジェイン・オースティンのような、若いときあまり好きでなかった作家が好きになってきました。
オースティンは学生のときに読まされたのですが、とても退屈な小説でした。3年前にオースティンのすべての6冊の小説を立て続けに読んだのですが、本当に卓越した作家であると認識しました。
ですから、ときには再読する必要があります。現代作家の中では、好きな作家はたくさんいますが、村上春樹がもっとも興味ある作家の一人ですね。
とても興味があります。もちろん彼は日本人ですが、世界中の人が彼のことを日本人と考えることができません。国を超えた作家です。
現時点で、村上春樹は現代文学の中で非常に関心を引く何かを象徴しています。人は、日本文化に必ずしも関心がなくても、村上春樹に通じるものを感じるのです。
− 村上春樹はそれを意図的にやっていると思いますね。
イシグロ その通りです。私もそう思います。そういう世代の作家がいます。ある程度は、私もイギリスやアメリカの読者だけではなく、国を越えた読者に訴えようとしています。
多くの作家がそうしようとしていると思います。彼らは意識的に世界中の読者に訴えようとして小説を書いているのです。
文化の壁がないように、そういう壁になりそうな要素をすべて作品から排除するのです。もちろんそれには一長一短がありますが、私も確かにそうしようとしています。
《中略》
− イシグロさんがこの前来日されたとき、村上春樹にお会いになったと聞いたのですが。
イシグロ 会いましたね。ここ(ロンドン)でも会いました。
− 村上さんとはどういう話をされるのですか。
イシグロ ジャズのことですよ(笑)。そのようなものです。作家同士が会うと、文学というような、大それたテーマについて話すことはあまりありません。
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