「昭和の怪物七つの謎」を語り尽くす−特別対談・保阪正康×半藤一利
週刊現代(2018-09-01), 頁:144
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半藤 東條は本当に、人を見る目がない軍人でしたね。武藤章(近衛師団長)が飛ばされてからは、周囲はゴマすりばかり
になった。人事は、カツ夫人と布団の中で決めると囁かれていたほどでした(笑)。
保阪 私は、延べ4000人に上る証言者の話を聞いて、昭和10年代の陸軍の最大の誤りは、東條人事にあったと思い至る
ようになりました。
他の陸相の場合は、局長級以上の人事だけを行い、それ以下は部下に任せた。しかし東條は、下の位まですべて自分で
決めました。政務室の大机に各省の人事配置図を広げ、赤鉛筆で一人ずつ、誰をどこへ持っていくかという作業にいそしん
でいたのです。
その際、自分に従順な幕僚だけを中枢に据え、そうでない者は、容赦なく激戦地に飛ばしてしまった。東條のせいで戦死
した幕僚が、いかに多かったか。
半藤 まあ、戦時の宰相としては最低だね。あれでは士気が下がるし、海軍とも対立してしまう。
ただ、国民には人気があったんですね。当時、軍人のことは呼び捨てにしていましたが、東條だけはなぜか「東條さん」と
呼んでいましたよ。