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中東のイスラエルが国交のない湾岸アラブ諸国に相次いで閣僚を派遣し、
関係改善を図っている。
イスラエルのネタニヤフ首相は10月26日、国交のないオマーンを首相と
して22年ぶりに訪れ、カブース国王と会談した。ネタニヤフ氏は「近年、アラ
ブ諸国と進めてきた外交努力の一環だ」と述べ、「さらに続く」と予告。11月
7日にはカッツ運輸相をオマーンでの国際会議に派遣し、自国とサウジアラ
ビアなど湾岸アラブ諸国を結ぶ「平和鉄道」の建設構想を提案した。
また、10月28日にはレゲブ文化・スポーツ相をアラブ首長国連邦(UAE)
であった柔道国際大会に出席させていた。大会ではイスラエルの選手が優
勝し、同国の国歌がUAEで初めて公式に演奏された。
旧敵つなぐ「共通の敵」
イスラエルは1948年の建国後、アラブ諸国と4度戦争した。エジプトとヨル
ダンを除き、現在もアラブ諸国とは国交がないが、近年はイランを「共通の
脅威」として、関係改善を目指している。前イスラエル外務次官のドア・ゴール
ド氏は「今までも水面下の交流はあったが、現在は一部を公にできるようになっ
た。アラブ諸国がイスラエルより、イランやイスラム過激派を最大の脅威と見
るようになったためだ」と言う。
一方、アラブ諸国のうちイスラム教スンニ派の盟主サウジアラビアは、シーア
派のイランと地域の覇権を争ってきた。隣国イエメンの内戦でイランと代理戦
争を続けるほか、イラクやレバノンなどでも対立する。
トランプ米政権は中東で「イラン包囲網」を築こうとしており、米国と同盟関係
にあるサウジとイスラエルはこの動きを利用した格好だ。サウジ人記者がトル
コで殺害された事件で、イスラエルは米国とともにサウジ政府を擁護。ネタニ
ヤフ氏は「恐ろしい事件で正しく処理されるべきだが、サウジの安定が極めて
重要だ。イランの方がより大きな問題だ」と述べ、サウジ批判を控えている。
イスラエルの接近に、パレスチナ問題で団結してきたアラブ諸国は難しい対
応を迫られている。アラブ連盟は2002年、第3次中東戦争(1967年)の占領地
からイスラエルが撤退し、パレスチナ国家の樹立を受け入れれば、関係を正
常化すると約束した「アラブ和平イニシアチブ」を採択した。
■米国への配慮、市民感情…
ただ、親米国エジプトやヨルダンは米国から多額の軍事・経済援助を受けて
おり、米国の中東政策に反対しにくい事情も抱える。トランプ政権が米大使館
をエルサレムに移した時も、アラブ諸国は一枚岩の強い対応を取り切れなかっ
た。
パレスチナ解放機構(PLO)幹部のハナン・アシュラウィ氏はこうした現状につ
いて朝日新聞に、「パレスチナ問題の解決なしに、アラブ諸国とイスラエルが
関係を正常化することは認められない」と述べ、強い懸念を表明した。
(エルサレム=渡辺丘、アルビル〈イラク北部〉=高野裕介)
朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASLCB01SBLC9UHBI047.html
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