川瀬・上智大教授、WTO紛争処理「不完全な二審制」
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO51309810T21C19A0EE8000/ ――韓国の日本製空気圧バルブへの関税引き上げを巡り、日本だけでなく韓国も「WTOで勝訴した」と発表しました。
「日本は勝ちきれなかった、という印象だ。最終審にあたる上級委員会の判断を見ると、韓国産業の損害に関する7つの
論点のうち日本は1つしか明確に勝っていない。『日本製品が韓国製品に与えた価格面での影響分析に問題がある』という
主張だけが認められた。日本側から見れば、再調査を許さないところまで完勝する必要があった」
「韓国は影響分析に関する再調査をすることになるが、それだけでも10カ月程度はかかる見通しだ。アンチダンピング課税
の期限は5年。2015年から始めたので、20年まで韓国は時間をかせいでいくだろう」
――今回の件がWTOの欠陥を示しているという指摘があります。
「紛争処理が不完全な二審制になっているためだ。今回、一審にあたる紛争処理小委員会(パネル)は日本が提起した
多くの論点で判断を回避した。上級委は制度上、パネルが判断を回避した論点を差し戻す機能がない。パネルで判断され
なかった論点が多い分、韓国が事実上の勝訴を主張できる素地となった」
――日韓は半導体材料を巡ってもWTOで協議を始めています。
「政治的に降りられない案件の場合、事務的な協議を一度だけしてパネルに行くパターンが多い。日韓が2回目の協議を
開くことで合意しているのは非常に珍しい。落としどころをさぐっているのかもしれないが、一番良い解決法は貿易管理の
当局レベルでの対話に落とし込むことだ」
「安全保障の観点で見れば、半導体材料の輸出を規制すること自体はまっとうな措置だ。ただ、あくまで安全保障の
枠組みの中で解決すべき話だった。安全保障はどうしても貿易制限的な性格を持つため、政治的な意図を排した抑制的な
対話が欠かせないが、日本の政府関係者は元徴用工問題との関係性を示唆している。政治的な意図があると判断されかねず、
絶対に言うべきではなかった」