
新型コロナウイルス感染者が出た鹿児島市内の学校に対し、根拠のないうわさや中傷が出回り、インターネットでも拡散した。教職員の家族が通学、通勤できなくなる事態も起きた。
「学生は退学させられた」。赤塚学園看護専門学校生3人の新型コロナウイルス感染が確認された4月19、20日以降、うわさが広まった。
電話やメール1日100件超
同校によると、3人は退院後の自宅待機中(6月3日現在)。学校には感染判明から数日間、電話やメールが1日100件以上来た。「どういう教育をしているんだ」などと責める内容がほとんどだった。インターネット上の中傷も相次いだ。
同級生や教職員ら接触者全員の陰性を境に沈静化したが、うわさは広がり続けた。西祐樹副校長(36)は「本人たちは十分反省している。社会的制裁は受けたので、これ以上精神的に追い詰めないでほしい」と話す。
影響は感染者だけにとどまらない。4月8日、高校1年生1人が感染したラ・サール学園では、在校生の家族や教職員の家族も通学、通勤の自粛を求められた。
教職員約130人に行ったアンケートでは、「(子が)学校から1週間休むように言われた」「ホテルに宿泊して自分の家族と関わりを絶っているにもかかわらず、長男がスポーツ少年団に
2週間来ないように言われた」「予約していた美容室やジム、歯科をキャンセルしたらほっとされた」などの回答が並ぶ。家族が会社を休んだら、欠勤扱いになり、給料をカットされたケースもあったという。
3歳の息子を幼稚園の入園式に出席させることができなかった30代男性職員に話を聞けた。幼稚園側と話し合った結果の出席自粛だったと明かす。「感染拡大を恐れる気持ちも分かる。
一概に差別的対応とは思わない」と理解を示す。ラ・サールでも接触者の陰性が分かり、過剰な反応も減っていった。
ネット発信に警鐘
新型コロナウイルス感染症を担当する鹿児島市保健予防課の土屋幹雄課長は「疫学調査の観点からは、接触者の陰性が分かれば、その周辺の人に感染する恐れはほぼない」と話す。
鹿児島大学法文学部の桜井芳生教授(社会システム論)は「危機の中で十分な情報がないと、人は尾ひれをつけて広める傾向がある」と指摘する。その上で、女子プロレスラーが会員制交流サイト
(SNS)上の誹謗(ひぼう)中傷を受けて自殺したとみられるケースにも触れ、「ネットでは気軽に発信できるが、内容に名誉毀損(きそん)やプライバシー侵害があれば、現実世界と同様に責任をとらないといけない時代になっている」と警鐘を鳴らす。