https://www.tokyo-np.co.jp/article/71326
神奈川県庁で新型コロナウイルス対応を担う部署の職員の2割が、10月までの半年間で月平均80時間超の残業をしていたことが、県への取材で分かった。月80時間が「過労死ライン」とされるが、最長で月150時間の残業をした職員もいた。今月に入り感染者が急増し、労働環境はさらに厳しくなっており、県幹部は「心身ともに限界の職員もいる」と危機感を強めている。(志村彰太)
2割の職員が「過労死ライン」を超えた神奈川県医療危機対策本部室。入り口には検温カメラがある=神奈川県庁で
◆最長で月に150時間
本紙は、患者の搬送先調整や宿泊療養施設の運営、濃厚接触者の調査などに当たる「医療危機対策本部室」の職員40人のうち、管理職を除く33人の5〜10月の残業時間のデータを入手した。県人事委員会規則で原則禁止する月平均80時間超の残業をしていたのは7人。このうち5人は複数の月で残業時間が100時間を超えた。1人の職員は10月に150時間の残業をした。
「災害や緊急時」に残業上限を除外する規定があるため、規則違反ではないという。ただ、ある職員は取材に「自宅に仕事を持ち帰って、寝たのが午前4時だった」と証言。サービス残業も常態化していた可能性をうかがわせる。
県所管保健所で新型コロナ対応に当たる職員80人の同期間の残業データも入手。月平均80時間超の職員は1人だった。夜間の相談対応を一括して行う本部室の職員の残業が長くなる傾向にある。
◆行革で職員を削減
埋橋美穂・管理担当課長は「患者や県民など外部とのやりとりが多い職員に長時間残業の傾向がある」と話す。国の補助金も多岐にわたり、申請業務が深夜に及ぶことがあるという。「使命感だけで、ぎりぎりのところで持ちこたえている」と訴える。
本部室には他部署からの応援職員が150人おり、残業対策でさらに100人増やす予定。だが、「1〜2カ月で交代する」(埋橋課長)ため、ノウハウを持つ特定の職員に負担が偏る側面もある。ある県幹部は「『本部室にお任せ』という縦割りが、長時間残業が減らない原因」と指摘する。
神奈川県は、行財政改革で職員数をピーク時の3分の2に減らしており、人口10万人当たり職員数は全国で最も少ない。全体的に余裕がなく、派遣元の部署から不満が出るなど、あつれきも生じている。
埋橋課長は「新型コロナ対応は終わりが見えない分、疲弊感が募る。全ての県民サービスを100パーセント維持するのは難しく、優先度が低い仕事は諦めないと、県民の命を守れない」と話している。
◆仕事のシェアを
公務員の働き方に詳しい東レ経営研究所の渥美由喜・特別研究員の話
公務員は残業時間を定めた労働基準法の対象外だが、官と民の区分けに意味がない。残業時間の上限を除外する規定は廃止すべきだ。行政は費用対効果の論理が働かず、必要性の薄い仕事でも残っている。
日ごろから仕事の取捨選択を進めながら、部署間で仕事をシェアする意識を醸成し、余裕をつくっておかないと、今回の神奈川県のように緊急時に対応が困難になる。このままでは、優秀な人材にさらに負荷がかかり、行政に人材が集まらなくなるだろう。