政治学者の水島治郎は、ポピュリズムには2つの定義があるとし、「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に
直接訴える」タイプと、「『人民』の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」タイプを挙げている
(『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』中公新書)。前者は、近年では2017年の希望の党や
それに端を発した枝野フィーバーによる立憲民主党の躍進など、後者は、れいわ新選組、参政党、
日本保守党などの台頭が当てはまる。後者のポピュリズムは、具体的には、自らが「人民」を直接代表すると
主張して正統化し、広く支持の獲得を試みる、「人民」重視の裏返しとしてのエリート批判、「カリスマ的
リーダー」の存在、イデオロギーにおける「薄さ」に特徴がある(前掲書)。
これらを踏まえると、国民民主党は、SNSなどを効果的に駆使し、国民の代弁者として「手取りを増やす」政策を
中心に掲げ、その政策の中身について懐疑的だったり、歪めた解釈を行なったりするメディアや政党などを
手厳しく批判している点において、前者だけでなく後者のポピュリズムの要素もいくつか兼ね備えているように
見える。イデオロギー色も薄い。ただし、党首のカリスマ性があまりない部分だけが異なっている。
これは、ポピュリズムの2つのタイプを上手く結合させた「ハイブリッド型のポピュリズム」といえるだろう。
つまり、「103万円の壁」の見直し(非課税枠を年収178万円まで引き上げることなど)を事実上のシングルイシュー
(単一論点)政策とし、「固定的な支持基盤を超え、幅広く国民に直接訴え」ながら、「人民」重視の裏返としての
(政策の妥当性に疑問を投げかけるような)メディアや政党などへの批判を展開していく絶妙なスタンスである。
分断を煽るポピュリズムではなく、国民のニーズに即した公平な仕組みに変えるための協調を呼びかける
ポピュリズムである。政策の障害になっている政治勢力の排除や、善と悪の戦いといった舞台を求める
「強いタレント性」がないことが、むしろ対立色を中和している面があるだろう。このようなハイブリッド型の
ゆるいポピュリズムは、好戦的な言動や極端な改革を嫌う日本のマジョリティとかなり相性が良いだろう。
https://toyokeizai.net/articles/-/839428