■当局が家宅捜索した意味
「詐欺などの知能犯は、警視庁なら刑事部の捜査2課が担当しますが、徐容疑者を逮捕したのは公安部です。中国の工作などによる対日有害活動を取り締まる役目を担う公安部が、徐容疑者の経営する店など関係先約20カ所を家宅捜索し、数々の物証を押収しています。捜査の目的が徐容疑者の背後関係に及んでいることは明らかです」(社会部デスク)
捜査機関がかようにも力を入れる背景には、徐容疑者の華麗なる経歴がある。彼がかつて受けたメディアのインタビューなどを基に、たどってみよう。
中国生まれの徐容疑者は、16歳の時に飛び級で武漢大学に入学を果たす。中国で最も権威のある「国家重点大学」に指定された高等教育機関の一つで、彼は同大大学院では日本近代文学史を専攻。23歳で修了後、日本の文科省にあたる文化部に奉職する。1986年、入部から半年後に来日し、在日中国大使館の3等書記官となるが、その当時、中国では〈最年少の外交官〉だったとして胸を張る。
その3年後に帰国した徐容疑者は、29歳で文化部を辞め、その後再来日を果たす。95年には「御膳房」をオープンさせて、日本では珍しい雲南地方の薬膳料理を紹介。人気を集めて都内屈指の高級中華料理店に育て上げた。
店のホームぺージには〈御膳房六本木店は歴代首相を始めとする日本政財界、中国大使館などによくご利用されています〉といううたい文句が掲げられている。
単に店の箔付けのようにも聞こえる宣伝文句にこそ、当局が本腰で強制捜査をした意味が隠されている。
■「中国大使館の人たち行きつけのお店として有名」
「御膳房は中国大使館の人たち行きつけのお店として、有名なところでした」
と振り返るのは、中国経済や企業に詳しいジャーナリストで、千葉大学客員教授の高口康太氏である。
「あの店がオープンした当時から、中国人が経営する高級中華は都内に幾つかあったと思いますが、中国大使館をターゲットにしたという意味では、珍しい店だったと思います」
都内有数の歓楽街に店舗を構える「御膳房」六本木店は、中国大使館の徒歩圏内に位置している。そんな好立地に店を出せたのは、徐容疑者のパートナーの存在が大きいとされる。